Uber Health

ユーザージャーニーとタッチポイントの可視化
サービスデザイン
プロダクトデザイン
UberHealthは、患者と通院の移動、医療サービス、日用品の配送をつなぐ医療支援プラットフォームです。本プロジェクトでは、その中でも従業員支援プログラム(EAP)を通じて職場の健康支援を受ける従業員向け体験の改善に取り組みました。サービスデザインのアプローチを用い、EAPの利用開始率と活用率の低さという課題に対応。再設計では、給付内容の確認、予約、申請の流れを簡素化し、人との接点を強化することで、より信頼できるスムーズな医療体験を目指しました。

タイムライン

12週間(2022年)

使用ツール

Figma, Figjam, Capcut

役割

• 研究分析主導
• インタビュー
• テスト実施
• プロトタイピング
• デザイン

チーム

Parita Patel, Amelia Du, Helen Chan, Zoey Zhou, Myself

00 - プロジェクトの背景

課題

UberHealthを通じて従業員支援プログラム(EAP)を利用する若手社会人は、サービスの利用開始や継続においてさまざまな障壁に直面していました。給付情報が分散していたことや、予約体験の断片化、申請手続きの複雑さにより、多くのユーザーが早い段階で利用を諦めてしまう状況がありました。明確なガイドや支援の接点が不足していたため、従業員は自身の健康支援サービスを十分に活用することができませんでした。

解決策

UberHealthのEAP体験は、従業員にとってより明確で一貫性のあるジャーニーとなるよう再設計されました。福利厚生情報の一元化、予約の簡素化、Uber送迎の連携、保険請求の手続きの簡略化などを、一つのプラットフォームに統合。さらに、医療トレーニングを受けたUberドライバーやクリニックのサポートスタッフといった新たな人的タッチポイントを導入し、信頼感を高め、スムーズな医療体験を提供しました。

Uber Healthはどのように機能するのか?

再設計された体験を伝えるために、ビデオプロトタイプを制作しました。デジタル上の操作と対面でのサポートがどのように連携し、福利厚生の発見から受診後のフォローアップまで、従業員を支えるのかを視覚的に紹介しています。下のリンクから、再設計されたジャーニーをご覧ください。

サービスデザインアプローチ

本プロジェクトでは、デジタルと現実の体験をつなぐ反復的なサービスデザインアプローチを採用しました。画面設計と人的タッチポイントの両方を検証・改善しながら進行。ユーザーからのフィードバックをもとに各フェーズをブラッシュアップし、テクノロジーと対人サポートを融合させた、若手社会人に寄り添う医療体験を実現しました。

01 - 発見

現行EAPの統計

従業員の健康支援を目的としたEAP(従業員支援プログラム)ですが、実際の利用率や満足度は低く、アクティベーション率・活用率・推奨率、さらに個人アカウントへの移行率も低迷していました。サービスの提供価値と実際のユーザー体験との間には大きなギャップがあり、従業員中心の体験へと再設計する緊急性がデータから明らかになりました。
アクティベーション率:
35%
(目標:50%)
利用率:
3%
(目標:15%)
推奨意向(NPSスコア相当):
2/10
(目標:6 / 10)

現行のUber Healthサービス

EAP体験の課題を明らかにするためには、既存のUber Healthサービスの分析が不可欠でした。プラットフォーム自体は、HIPAA準拠かつ多言語対応で、救急以外の移動支援、訪問医療、必需品の配送などに対応しています。しかし、EAPにおける体験は一貫性に欠けていました。デジタルと人的タッチポイントの接続が不十分で、従業員が自信を持って福利厚生を活用することが難しい状況であることが明らかになりました。

共創ワークショップ

従業員によるEAPの実際の利用体験を深く理解するために、5名の参加者を招いた共創ワークショップを実施しました。目的は、EAPを通じた医療ジャーニーにおける感情の動きや期待値を明らかにすることでした。
セッションでは、ホワイトボードを用いたアクティビティやストーリーボードのウォークスルーを実施。参加者は、アクセシビリティ、症状の重症度に応じたサービスの希望、EAPの活用経験についての問いに答えました。これらの演習により、従業員の期待と現行システムとのギャップが浮き彫りになり、次の設計フェーズへの重要なインサイトが得られました。
ストーリーボードでは、在宅での理学療法とUberによる処方薬の配送を含む、緊急性のない医療シナリオを描きました。

ワークショップから得られた主なインサイト

現在のEAP体験における課題と、従業員が本当に求めている医療支援のあり方が、ワークショップを通じて浮き彫りになりました。
1. 事前の情報不足が利用意欲を下げている
補償範囲や対象サービス、返金プロセスが不明確なため、EAPの利用をためらう参加者が多く見られました。

「最初からカバーされないってわかってたら、どれくらい補償されるのかとか、どうやって請求するのかを調べる気にならない。」

— ワークショップ参加者
2. サービスの分断が混乱を招いていた
複数のウェブサイトや窓口を行き来しなければならず、指示も不明瞭だったため、参加者は圧倒され、利用をためらう状況にありました。

「色々調べたのに、結局ほとんど補償されないってわかって時間の無駄になる。」

— ワークショップ参加者
3. 医療サービスには信頼性と透明性が不可欠
在宅訪問やUberを活用したサービスには好意的な声もあった一方で、ドライバーへの信頼や、到着時間、本人確認、配送の安全性などに関する不安も挙がりました。

「すごくいいアイデアだと思うけど、健康はテイクアウトとは違う。もし薬が届かなかったらどうするの?」

— ワークショップ参加者
4. 人的タッチポイントが感情的な安心感を生む
移動中・電話・クリニックでの対応など、あらゆる場面で“安心感”を求める声が多く聞かれました。希望するコミュニケーションスタイル、信頼できる配送手段、乗車のトラッキングなど、ちょっとした工夫が大きな安心につながります。

「たまに誰とも話したくない時があるんです。運転手がそれを事前に知っていたら、もっと気楽に乗れますよね。」

— ワークショップ参加者

02 - マッピング

タッチポイントマップ

ディスカバリーフェーズの発見をもとに、ユーザーの行動と接点を5つの主要ステージに分けて可視化したタッチポイントマップを作成しました。
ステージは以下の通りです:情報収集 → 予約 → 通院 → 保険請求 → サービス後のフォローアップ。
ユーザーは、UberHealthアプリ、EAP関連のウェブサイト、クリニックの予約システム、Google検索、家族からの助言など、複数のバラバラなシステムを行き来していました。
この断片的な体験は、より統合された透明性のあるサービスジャーニーの必要性を強く示しています。

現状のカスタマージャーニーマップ

続いて、EAPサービスを利用して歯科治療を受けようとする若手社会人「Ria」の体験をもとに、カスタマージャーニーマップを作成しました。彼女のジャーニーは、前述の5つのステージ(情報収集、予約、通院、保険請求、フォローアップ)に沿って構成されています。
Riaの感情は、混乱 → 疑念 → 安心 → 落胆 → 不安と変化していきました。
この変化は、情報の不明瞭さ、システムの分断、信頼性の欠如といった課題を反映しています。彼女の体験を可視化することで、サービス設計における重要な課題点と改善の方向性が明らかになりました。

3つの重要な課題ポイント

EAP体験において特に問題が顕著だった3つの重要な接点が明らかになりました:
1. 保険請求の選択肢に関する混乱
福利厚生に関する情報が分散・断片化しており、多くのユーザーがサービス予約前に利用を諦めていました。補償内容を確認するには、複数の異なるプラットフォームを横断する必要がありました。
2. 予約プロセスでの混乱
支払い方法、保険適用の可否、予約の確定などが不透明で、予約時に大きなストレスが生じていました。前払いの必要性や、クリニックに提出すべき情報が明確でなく、手続きに苦労するケースが多く見られました。
3. 保険請求の難しさ
請求手続きは煩雑で時間もかかり、ユーザーは複数のシステムや不明瞭な提出手順、対応の遅延に直面していました。これにより、返金を諦める人も多く、EAPへの信頼低下にもつながっていました。

03 - デザイン & 04 - イテレーション

アイデーション

特定された3つの課題ポイントをもとに、EAP体験の分断を減らし、全体の流れをスムーズにすることを目的としたアイデーションセッションを実施しました。アイデアは、ジャーニーの3つの主要ステージに沿って整理されました。
情報収集 : 初期の発見や意思決定を簡素化するために、福利厚生情報を一元化したダッシュボード、補償範囲の可視化、クリニックの推薦機能などのソリューションが提案されました。
予約 : パーソナライズされた体験を重視し、予約プロセスの簡略化、リアルタイムの乗車追跡、医療機関との送迎連携といった機能が検討されました。
保険請求 : 手続きの負担を軽減するため、シームレスな請求、補償内容の自動トラッキング、リアルタイムのステータス通知といった仕組みが考案されました。

第1回デザインスプリント

第1回デザインスプリントでは、中程度の精度のプロトタイプを用いて、初期アイデアの検証に取り組みました。テストはタスクベースのユーザビリティテスト形式で、シンクアラウド方式を採用。4名の参加者を対象に、以下の3つの主要なジャーニーに焦点を当てて実施しました:福利厚生の発見、予約手続き、保険請求。このスプリントで得られたフィードバックは、次のデザイン反映フェーズに直接活かされました。
↓ 第1回デザインスプリントで使用した中間精度プロトタイプ ↓

第1回デザインスプリントから得られた主なインサイト

初回スプリントでは、以下の6つの主要な課題が明らかになりました:
1. 保険請求オプションに関する混乱
2. 請求書の所在が分かりにくく、ナビゲーションの視認性が低い
3. オンボーディング時にサービスの全体像が伝わらない
4. 信頼性・安全性に対する不安
5. 医療提供者に関するパーソナライズの欠如
6. 人的タッチポイントの不在

第2回デザインスプリント

デジタルプロトタイプの改善と新たな人的インタラクションの導入を経て、第2回目のテストを実施しました。前回と同様に、4名の参加者がシンクアラウド方式によるタスクベースのユーザビリティテストを行い、コアとなる3つのジャーニーに加えて、Uberドライバーとのコミュニケーションや受付対応といった新たな人的タッチポイントも含まれました。このスプリントでは、デジタルとリアルの双方の接点が、前回特定された主要な課題をどの程度改善できたかを検証しました。
↓ 第2回デザインスプリントで使用した中間精度プロトタイプ ↓
第1回スプリントで得られたフィードバックをもとに、以下の改善を加えました:
✅ オンボーディング時にUber Healthの紹介を追加
✅ 予約時にUber送迎を選べるオプションを追加
✅ 無料Uber送迎に関するツールチップを予約画面に表示
✅ 予約確認・自動請求などの主要機能に対するコンテキスト付きオンボーディングを実装
✅ 自動請求機能に同意確認ステップを追加

第2回デザインスプリントから得られた主なインサイト

第2回スプリントでは、改善点に対する好意的な反応とともに、引き続き課題が残るポイントも明らかになりました。
1. オンボーディングによってUber Healthの理解が深まった
2. 送迎オプションの切り替えやツールチップで操作の自由度が向上
3. 中間地点でのオンボーディングが全画面説明よりも効果的
4. 同意画面により自動請求の仕組みが明確になった
5. 人的タッチポイントによりサービスの流れが把握しやすくなった
6. ケアコーディネーターの役割が文脈なしでは分かりにくかった
7. 在宅医療に対する信頼性・安全性の懸念は依然として残った

05 - デザインアウトカム

新たなユーザージャーニー

2回のテストから得られたインサイトをもとに改善されたこの新しいユーザージャーニーでは、UberHealthを通じて医療サービスを利用する若手社会人「Ria」の体験を通じて、エンドツーエンドの体験全体を示しています。このジャーニーには、クリニックでの受診と自宅での診療の両シナリオが含まれており、状況やニーズに応じてサービスがどのように適応するかを可視化しています。ストーリーボードでは、RiaがEAPの福利厚生を見つけてから、予約、Uber Healthでの移動、ドライバーやクリニック受付スタッフ、理学療法士とのやり取り、自動請求の完了に至るまでの流れを描いています。
↓ それでは、Riaのジャーニーを順に見ていきましょう。 ↓
サービスジャーニーのストーリーボードに加えて、以下の画面はRiaの在宅ケア体験におけるデジタル面を補完しています。これらのハイファイプロトタイプのクリップでは、理学療法の予約から提供者の移動の追跡、フィードバックの送信、自動請求の完了に至るまで、RiaがUberHealthアプリの主要機能とどのように関わるかを示しています。
↓ デジタル体験の流れはこちらから ↓

1. 予約と送迎の手配

Riaは、距離・評価・空き状況でクリニックをフィルターし、医療提供者の資格や対応言語などの詳細を確認します。在宅での理学療法を予約し、理学療法士の送迎としてUber Healthをリクエスト。予約内容はダッシュボードから確認できます。

2. 訪問当日の準備

予約当日、Riaはリマインダーを受け取り、自宅に向かうUber Healthの車両をリアルタイムで追跡できます。予約番号も付与され、トラブルが発生した場合にはヘルスコーディネーターとチャットで連絡を取ることも可能です。

3. 在宅ケア体験の評価

訪問後、Riaは理学療法士を評価し、自宅訪問に関するフィードバックを残します。

4. EAP給付の自動請求

セッション後、Riaはダッシュボード上の通知をタップして請求書を確認し、内容をチェックして同意を行い、数ステップで自動請求を完了します。

06 - 振り返り

学んだ教訓

ビジネス戦略と整合したデザイン判断
まったく新しいシステムを提案するのではなく、既存のUberHealthのインフラを活かした拡張を優先し、実現可能性と事業目標との整合性を重視しました。機能の選定は、ユーザーニーズと実行可能性、投資対効果のバランスに基づいて行われました。
ロールプレイによる課題の可視化と関係者の共通理解
ロールプレイは、実際の医療体験を模擬し、従来の手法では見落としがちな細かな不安や感情的なギャップを明らかにするうえで有効でした。また、ビジュアルストーリーテリングを通じて、ステークホルダーに課題を直感的に伝える手段としても機能しました。
不確実性と技術的制約の中でのデザイン
UberHealthの技術的バックエンドや実装条件へのアクセスがない中で、設計上の前提は柔軟に保つ必要がありました。最終プロトタイプでは、推測に頼るのではなく、既存システムに段階的に統合可能な現実的な改善に焦点を当てました。
信頼を築く人的タッチポイントの統合
人的インタラクションを「追加する」だけでなく、「いつ・どのように・なぜ」関与すべきかを設計することが求められました。テストでは、訪問診療や送迎中など不安が生じやすいタイミングで、人的タッチポイントが自然に組み込まれていることで、ユーザーがより安心感を得られることが明らかになりました。これは、機能性だけでなく感情面への配慮が重要であることを改めて示しています。